2026.02.17

小児の虫歯予防とフッ素塗布の効果的な活用法

「子どもの歯を虫歯から守りたい」というのは、すべての保護者の願いではないでしょうか。乳歯は永久歯に比べて虫歯になりやすく、進行も早いという特徴があります。しかし、適切な予防策を講じることで、子どもの虫歯は大幅に減らすことができます。

この記事では、小児の虫歯予防の基本と、特にフッ素塗布の効果的な活用法について、歯科医師の視点から詳しく解説します。

子どもの歯が
虫歯になりやすい理由

子どもの歯が虫歯になりやすい理由

子どもの歯は、大人の歯と比べていくつかの特徴があり、それが虫歯のリスクを高めています。

乳歯と永久歯の構造的な違い

乳歯は永久歯と比べて、エナメル質と象牙質の厚みが約半分しかありません。エナメル質は歯の表面を覆う硬い層で、虫歯菌が産生する酸から歯を守る役割を果たしています。この層が薄いということは、酸による攻撃を受けやすく、虫歯が内部まで進行しやすいということを意味します。

また、乳歯のエナメル質は、永久歯と比べて結晶構造が未熟で、ミネラル密度が低いという特徴があります。これにより、酸に対する抵抗性が弱く、脱灰が起こりやすくなっています。さらに、乳歯の神経(歯髄)は永久歯と比べて大きく、歯髄に近い位置まで虫歯が進行しやすい構造になっています。

生えたばかりの永久歯も、完全に成熟したエナメル質を持っていません。歯が口の中に生えてから、唾液中のミネラルを取り込んで徐々に硬く強くなっていく「萌出後成熟」という過程が、2〜3年かけて進行します。この期間中は、虫歯になりやすい状態にあります。

子どもの食生活と虫歯リスク

子どもの食生活は、大人と比べて虫歯のリスクが高い傾向があります。甘いお菓子やジュースを摂取する機会が多く、また間食の回数も多い傾向があります。

虫歯の原因菌であるミュータンス菌は、糖質を代謝して酸を産生します。口の中に食べ物が入るたびに、口腔内のpHは低下し(酸性になり)、歯の脱灰が起こります。通常は、食後30〜40分程度で唾液の緩衝作用によってpHが中性に戻り、再石灰化が起こります。

しかし、間食の回数が多いと、口の中が常に酸性の状態になり、再石灰化が追いつかなくなります。特に、飴やキャラメルなど、口の中に長時間留まる食べ物や、スポーツドリンクやジュースをダラダラと飲む習慣は、虫歯のリスクを大幅に高めます。

歯磨き習慣の未確立

子どもは、まだ適切な歯磨き技術を習得していないことが多く、また歯磨きの重要性を十分に理解していません。特に奥歯や歯と歯の間など、磨きにくい部分に磨き残しが多くなります。

また、小学校低学年くらいまでは、手の器用さが十分に発達していないため、細かい動きが必要な歯磨きを正確に行うことが難しいです。そのため、保護者による「仕上げ磨き」が重要になります。

フッ素の虫歯予防メカニズム

フッ素の虫歯予防メカニズム

フッ素は、虫歯予防に最も効果的な物質の一つです。フッ素が虫歯を予防するメカニズムには、いくつかの作用があります。

歯質の強化作用

フッ素の最も重要な作用は、歯の表面のエナメル質を強化することです。エナメル質の主成分は「ハイドロキシアパタイト」という結晶ですが、フッ素が作用すると「フルオロアパタイト」という、より酸に溶けにくい結晶に変化します。

フルオロアパタイトは、ハイドロキシアパタイトと比べて、酸に対する溶解度が約10分の1です。つまり、虫歯菌が産生する酸によって、歯が溶けにくくなるのです。この作用は、歯が生えた後でもフッ素を適用することで得られます。

特に、生えたばかりの歯は、前述の通り未成熟なエナメル質を持っているため、この時期にフッ素を適用することで、より強い歯質を獲得できます。

再石灰化の促進

虫歯の初期段階では、エナメル質の表面から少量のミネラルが溶け出していますが、まだ穴は開いていません。この段階を「初期虫歯」または「脱灰」と呼びます。

フッ素は、この脱灰部位への再石灰化を促進します。唾液中のカルシウムやリン酸イオンと結合して、歯の表面に再びミネラルを沈着させるのです。フッ素が存在すると、再石灰化の速度が約2倍になるとされています。

これにより、初期虫歯であれば進行を止めたり、元の健康な状態に回復させたりすることができます。ただし、すでに穴が開いてしまった虫歯は、フッ素だけでは治りません。

細菌の酸産生抑制

フッ素は、虫歯菌の代謝を阻害し、酸の産生を抑制する作用もあります。具体的には、細菌の「エノラーゼ」という酵素の働きを阻害することで、糖から酸への代謝過程を妨げます

この作用により、口の中のpHの低下が抑えられ、脱灰が起こりにくくなります。ただし、この作用を得るためには、口の中に持続的にフッ素が存在する必要があります。

フッ素塗布の種類と適切な時期

フッ素塗布の種類と適切な時期

フッ素を歯に適用する方法には、いくつかの種類があり、それぞれ濃度と使用方法が異なります。

歯科医院でのフッ素塗布

歯科医院で行うフッ素塗布は、高濃度のフッ素(9000ppm程度)を使用します。ppmは「parts per million」の略で、100万分の1を表す単位です。9000ppmは0.9%のフッ素濃度に相当します。

塗布方法は、歯の表面を清掃した後、ジェルやフォーム状のフッ素を歯に塗布します。塗布後は30分程度、飲食を控えます。これにより、フッ素が歯に浸透する時間を確保します。

フッ素塗布の開始時期は、歯が生え始めたらできるだけ早く、具体的には生後6ヶ月頃から開始することが推奨されています。乳歯の前歯が生え揃う1歳頃には、定期的なフッ素塗布を始めるのが理想的です。

塗布の頻度は、虫歯のリスクによって調整しますが、一般的には3〜4ヶ月に1回が推奨されます。虫歯のリスクが高い子どもでは、1〜2ヶ月に1回の頻度で塗布することもあります。

フッ素洗口

フッ素洗口は、低濃度のフッ素溶液(225〜900ppm)で口をすすぐ方法です。主に保育園や幼稚園、小学校などの集団で実施されることが多いですが、家庭でも行うことができます。

うがいができるようになる4〜5歳頃から開始します。週に1回または毎日、就寝前に行うのが効果的です。洗口後は30分程度、飲食を控えます。

フッ素洗口は、特に永久歯への生え変わり期(6〜12歳)に効果的とされています。この時期は虫歯のリスクが高いため、継続的なフッ素の供給が重要です。

フッ素配合歯磨き粉

家庭で毎日使用できるのが、フッ素配合歯磨き粉です。日本で販売されている歯磨き粉のフッ素濃度は、かつては1000ppmが上限でしたが、2017年から1500ppmまで認可されました。

使用開始時期と適切な量は、年齢によって異なります。歯が生え始めてから2歳頃までは、500ppm程度のフッ素濃度の歯磨き粉を、米粒大(約1〜2mm)の量を使用します。3〜5歳では、500〜1000ppmのフッ素濃度で、グリーンピース大(約5mm)の量を使用します。6歳以上では、1000〜1500ppmのフッ素濃度で、歯ブラシの毛先全体(約1cm)の量を使用します。

歯磨き後のすすぎは、少量の水で1回程度にとどめます。何度もすすぐと、フッ素が流れてしまい、効果が減少するためです。

複数のフッ素応用法の組み合わせ

虫歯予防の効果を最大化するためには、これらのフッ素応用法を組み合わせることが推奨されます。具体的には、「毎日のフッ素配合歯磨き粉の使用」+「定期的な歯科医院でのフッ素塗布」という組み合わせが基本です。

虫歯リスクが高い子どもでは、これに加えて「フッ素洗口」を追加することで、さらなる予防効果が期待できます。研究によると、複数のフッ素応用法を組み合わせることで、単独使用と比べて虫歯予防効果が約20〜30%向上することが示されています。

虫歯予防のための生活習慣

虫歯予防のための生活習慣

フッ素の使用に加えて、日常生活での習慣も虫歯予防には重要です。

食生活の管理

虫歯を予防するための食生活のポイントは、「何を食べるか」よりも「いつ、どのように食べるか」が重要です。

間食の回数は、1日2回程度に制限することが推奨されます。おやつの時間を決めて、ダラダラ食べを避けることが大切です。おやつを食べた後は、水で口をすすぐか、できれば歯を磨くことが理想的です。

糖質を多く含む食品(お菓子、ジュース、スポーツドリンクなど)は、摂取頻度を減らします。特に就寝前の甘い物の摂取は避けてください。就寝中は唾液の分泌が減少するため、虫歯のリスクが高まります。

おやつには、虫歯になりにくい食品を選ぶことも有効です。チーズ、ヨーグルト、果物、野菜スティックなどは、糖質が少なく、虫歯のリスクが低い食品です。また、キシリトールを含むガムやタブレットは、虫歯菌の活動を抑制する効果があります。

適切な歯磨き習慣の確立

子どもの歯磨きは、年齢に応じた方法で行います。

0〜2歳頃は、保護者が全面的に磨きます。機嫌の良い時を選び、嫌がらないように短時間で効率的に磨きます。この時期は、歯磨きの習慣をつけることが主な目的で、完璧に磨くことよりも、歯磨きを嫌いにならないことが重要です。

3〜5歳頃は、子ども自身に歯ブラシを持たせて磨かせた後、保護者が仕上げ磨きをします。子どもが自分で磨くことで、歯磨きの習慣を定着させると同時に、技術を徐々に習得していきます。

6歳以降は、永久歯が生え始めるため、より丁寧な歯磨きが必要になります。特に、「6歳臼歯」と呼ばれる第一大臼歯は、最も虫歯になりやすい歯です。この歯は、乳歯の奥に生えてくるため、気づきにくく、また完全に生えるまでに時間がかかるため、磨きにくいという特徴があります。

小学校中学年くらいまでは、保護者による仕上げ磨きを続けることが推奨されます。少なくとも1日1回、就寝前の歯磨きでは仕上げ磨きを行いましょう。

定期的な歯科検診の重要性

虫歯予防には、歯科医院での定期的な検診が欠かせません。検診では、虫歯の有無だけでなく、歯並びや噛み合わせ、歯肉の状態、歯磨きの状態などを総合的に評価します。

検診の頻度は、3〜6ヶ月に1回が推奨されます。虫歯リスクが高い子どもでは、より頻繁な検診が必要です。

検診時には、歯の清掃(クリーニング)とフッ素塗布を行います。また、必要に応じて「シーラント」という予防処置も行います。シーラントは、奥歯の溝を樹脂で埋める処置で、溝に食べ物やプラークが溜まるのを防ぎます。特に6歳臼歯にシーラントを行うことで、虫歯予防効果が高まります。

当院では小児歯科に対応しており、子どもが歯科医院を嫌いにならないよう、優しく丁寧な対応を心がけています。また、予防歯科を重視する当院の方針として、虫歯になってから治療するのではなく、虫歯にならないための継続的なサポートを提供しています。

フッ素の安全性と適切な使用量

フッ素の安全性と適切な使用量

フッ素の虫歯予防効果は科学的に実証されていますが、過剰摂取には注意が必要です。

フッ素の適正使用

適切な量のフッ素は、虫歯予防に非常に有効で、安全性も確立されています。世界保健機関(WHO)や日本の厚生労働省も、フッ素の虫歯予防への使用を推奨しています

歯科医院でのフッ素塗布や、家庭でのフッ素配合歯磨き粉の使用は、適切に行われる限り安全です。フッ素塗布後に多少飲み込んでしまっても、使用量が適切であれば健康上の問題はありません。

ただし、フッ素を含む製品を子どもの手の届かない場所に保管し、誤飲を防ぐことは重要です。特にフッ素洗口液や高濃度のフッ素ジェルは、大量に飲み込むと急性中毒を起こす可能性があるため、注意が必要です。

フッ素の過剰摂取による影響

フッ素を長期間、過剰に摂取すると、「歯牙フッ素症」という状態が起こる可能性があります。これは、歯の形成期(0〜8歳頃)に過剰なフッ素を摂取することで、エナメル質に白斑や褐色の変色が生じる状態です。

歯牙フッ素症を予防するためには、フッ素の総摂取量を適切に管理する必要があります。具体的には、フッ素配合歯磨き粉の使用量を年齢に応じて調整し、子どもが歯磨き粉を大量に飲み込まないように監督することが重要です。

また、フッ素を添加した水道水がある地域や、フッ素サプリメントを使用している場合は、他のフッ素源との重複に注意が必要です。ただし、日本では水道水へのフッ素添加は一般的ではなく、通常の使用方法であれば、過剰摂取のリスクは低いとされています。

当院では、お子さんの虫歯リスクと全身状態を評価した上で、適切なフッ素の使用方法を個別に提案しています。

よくある質問

Q.フッ素は何歳から使用できますか?

フッ素は、歯が生え始めたらすぐに使用を開始できます。具体的には、生後6ヶ月頃の下の前歯が生え始めた時期から、フッ素配合歯磨き粉の使用を開始できます。また、歯科医院でのフッ素塗布も、歯が生えてきたら受けることができます。初めての歯科受診は、1歳頃までに行うことが推奨されています。

この時期から定期的にフッ素塗布を受けることで、虫歯予防効果が高まります。ただし、使用するフッ素の濃度と量は年齢に応じて調整する必要があるため、歯科医師の指導のもとで適切に使用してください。

Q.フッ素塗布は痛くないですか?子どもが嫌がらないか心配です。

フッ素塗布自体は全く痛くない処置です。歯の表面にジェルやフォームを塗るだけなので、注射や歯を削ることもありません。フッ素の味は、製品によってリンゴやブドウなどのフレーバーがついていることが多く、子どもも受け入れやすくなっています。ただし、小さな子どもは、口を開け続けることや、口の中に器具を入れられることを嫌がることがあります。

当院では、子どもが歯科医院に慣れるよう、最初は診療チェアに座る練習から始め、徐々に処置に進むなど、段階的なアプローチを取っています。また、保護者の方も一緒に診療室に入っていただき、安心できる環境を作ります。

Q.フッ素を使っていれば歯磨きをしなくても虫歯にならないですか?

いいえ、フッ素は虫歯予防の重要な手段の一つですが、歯磨きの代わりにはなりません。フッ素は歯質を強化し、再石灰化を促進する効果がありますが、プラーク(歯垢)自体を除去する効果はありません。虫歯の原因であるプラーク中の細菌を物理的に除去するには、歯磨きが不可欠です。

最も効果的な虫歯予防は、「適切な歯磨き」+「フッ素の使用」+「食生活の管理」を組み合わせることです。どれか一つだけでは不十分で、これらを総合的に実践することが重要です。また、定期的な歯科検診で専門的なクリーニングを受けることも、虫歯予防には欠かせません。

Q.乳歯の虫歯は永久歯に影響しますか?

はい、乳歯の虫歯は永久歯に様々な影響を与える可能性があります。乳歯の虫歯が進行して根の先端に膿が溜まると、その下で育っている永久歯の表面に影響を与え、エナメル質の形成不全を引き起こすことがあります。また、乳歯を早期に失うと、隣の歯が傾いてきて、永久歯が生えるスペースが不足し、歯並びが悪くなる原因となります。

さらに、口の中に虫歯菌が多い環境では、生えてきたばかりの永久歯も虫歯になりやすくなります。「どうせ生え変わるから」と乳歯の虫歯を放置すると、将来の永久歯の健康や歯並びに悪影響を及ぼすため、乳歯も大切にケアする必要があります。

Q.フッ素塗布と合わせて、他にできる虫歯予防はありますか?

フッ素塗布に加えて、いくつかの予防法を組み合わせることで、より高い虫歯予防効果が得られます。「シーラント」は、奥歯の溝を樹脂で埋める処置で、特に6歳臼歯に効果的です。「キシリトール」を含むガムやタブレットの使用も、虫歯菌の活動を抑制します。キシリトールは虫歯菌が代謝できない糖アルコールで、1日3回、食後に摂取することが推奨されます。

また、「プロバイオティクス」という善玉菌を含む製品も、口腔内の細菌バランスを改善し、虫歯予防に役立つ可能性があります。さらに、家庭での「仕上げ磨き」を継続すること、「デンタルフロス」で歯間を清掃すること、定期的な歯科検診を受けることなども重要です。当院では、お子さんの虫歯リスクに応じて、最適な予防プログラムを提案しています。

この記事を監修した人

埼玉志木駅前歯医者・矯正歯科 コスモクリニック院長 川村 英史

埼玉志木駅前歯医者・矯正歯科
コスモクリニック 院長

院長の川村は、一般歯科からインプラントなどの専門的な治療まで幅広く診療を行い、地域の皆様の口腔健康をサポートしています。東北大学を卒業後、日本最大のクリニックで臨床経験を積み、2016年に志木駅前歯医者コスモクリニックを開院。患者様一人ひとりに寄り添い、丁寧な説明と安心できる治療を心がけています。インプラント寺子屋2022での講演や、WHITE CROSSでの「インプラント治療におけるデジタルとアナログの融合」など講演活動にも積極的に取り組み、著書「最強の臨床術」も執筆。予防歯科を重視した質の高い歯科医療の提供を通じて、地域に貢献する医療を提供できるよう努めております。

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