2025.12.22

小児の歯並びに影響する口腔習癖と適切な介入時期

お子さんの指しゃぶりや口呼吸、舌を出す癖などを見て、「このまま放っておいて大丈夫かな」と心配になったことはありませんか?実は、こうした口腔習癖は歯並びや顎の成長に大きな影響を与える可能性があります。この記事では、子どもの歯並びを悪化させる習癖のメカニズムと、いつどのように介入すべきかについて、歯科医師の視点から詳しく解説します。

口腔習癖が
歯並びと顎の成長に与える影響

口腔習癖が歯並びと顎の成長に与える影響

口腔習癖とは、無意識に繰り返される口や舌の癖のことで、子どもの顎の成長や歯並びに長期的な影響を及ぼします。

力の持続時間と骨の変形

歯や顎の骨は、持続的な力に対して位置や形を変える性質があります。これは「骨のリモデリング」と呼ばれる現象で、力が加わった側では骨を吸収する「破骨細胞」が活性化され、反対側では骨を作る「骨芽細胞」が活性化されることで起こります。

矯正治療では、この性質を利用して計画的に歯を動かしますが、口腔習癖による力は無秩序で持続的です。研究によると、1日6時間以上の持続的な力があれば、歯や顎の骨の位置が変化すると報告されています。例えば指しゃぶりを1日に数時間行う習慣があれば、それだけで歯並びに影響が出る可能性があるのです。

また、成長期の子どもは骨がまだ柔軟で変形しやすい状態にあります。乳歯列期から混合歯列期(乳歯と永久歯が混在する時期)は特に顎の成長が活発なため、この時期の習癖は将来の歯並びに大きな影響を与えます。

顔面の成長方向への影響

口腔習癖は、単に歯の位置だけでなく、顔全体の成長方向にも影響します。正常な顔の成長は、上顎と下顎がバランスよく前方および下方に成長することで進みます。しかし、習癖によって異常な力が加わると、このバランスが崩れます。

例えば、常に口を開けている習慣(開口習癖)がある子どもは、下顎が下後方に回転しながら成長する傾向があります。その結果、顔が縦に長い「ロングフェイス」と呼ばれる顔貌になりやすくなります。このような骨格的な問題は、歯の矯正だけでは改善が難しく、場合によっては外科手術が必要になることもあります。

代表的な口腔習癖とその影響

代表的な口腔習癖とその影響

ここでは、特に注意が必要な口腔習癖について、それぞれの特徴と影響を詳しく見ていきます。

指しゃぶり・おしゃぶりの使用

指しゃぶりは、乳幼児期には自然な行動であり、3歳頃までであれば大きな問題にはなりません。しかし、4歳を過ぎても続く場合は注意が必要です。

指しゃぶりによって、前歯が前方に押し出され「上顎前突」という状態になります。また、指を吸う際に頬の筋肉が収縮するため、上顎の歯列が横に狭くなり「V字型」の歯列になることもあります。さらに、上下の前歯が噛み合わない「開咬」という状態も生じやすくなります。開咬があると、前歯で食べ物を噛み切ることができず、発音にも影響が出ます。

指しゃぶりの頻度や強さ、持続時間によって影響の程度は異なります。1日に数回程度であれば影響は少ないですが、就寝時に数時間続けている場合や、強い吸引力で指を吸っている場合は、より深刻な影響が出やすくなります。

おしゃぶりも同様の影響がありますが、指しゃぶりと比較すると若干影響は少ないとされています。これは、おしゃぶりの方が口の中での位置が安定しており、また親のコントロールで使用時間を制限しやすいためです。ただし、2歳を過ぎてもおしゃぶりを常時使用している場合は、やめる方向で働きかけることが推奨されます。

舌突出癖(舌癖)

舌突出癖とは、飲み込む際や話す際、あるいは安静時に舌を前方に突き出す癖です。正常な場合、飲み込む際には舌の先端が上顎の前歯の裏側のやや後方にある「口蓋ひだ」と呼ばれる部分に触れます。しかし、舌突出癖がある場合は、舌が前歯を押すような動きをします。

舌は非常に強い筋肉の塊で、安静時でも常に歯に触れています。正常な舌の位置は「舌が上顎に接し、舌先が前歯の裏側に軽く触れる程度」ですが、舌突出癖があると舌が常に前歯を押す力が働きます。人は1日に約600〜2000回飲み込む動作をするため、その都度前歯を押す力が加わると、徐々に開咬や上顎前突が生じます。

舌突出癖は、扁桃腺やアデノイドの肥大、慢性的な鼻閉などで口呼吸が習慣化した結果、二次的に生じることもあります。この場合、まず鼻の通りを改善することが必要になるため、耳鼻咽喉科との連携が重要です。

口呼吸と低位舌

鼻ではなく口で呼吸する習慣を「口呼吸」といいます。正常な鼻呼吸では、鼻を通る空気が温められ、加湿され、異物がフィルタリングされますが、口呼吸ではこれらの機能が働きません。

口呼吸の問題は呼吸器系への影響だけではありません。常に口を開けているため、舌の位置が下がり「低位舌」という状態になります。通常、舌は上顎に接することで上顎の成長を内側から支える役割を果たしていますが、低位舌ではこの力が働かないため、上顎が横に狭くなります。

また、口を開けていると下顎を支える筋肉の緊張が低下し、下顎が下後方に成長する傾向があります。その結果、前述したロングフェイスになりやすく、将来的に「下顎後退」という骨格的な問題を引き起こすこともあります。

口呼吸の原因としては、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、アデノイド肥大、口蓋扁桃肥大などがあります。これらの原因がある場合は、まず耳鼻咽喉科での治療が必要です。

爪噛み・唇噛み

爪を噛む癖や唇を噛む癖も、歯並びに影響を与えます。特に下唇を噛む癖は、上の前歯が前に出て、下の前歯が内側に傾く原因となります。これは、下唇を噛む際に上の前歯で下唇を挟むため、上の前歯には外向きの力が、下の前歯には内向きの力が持続的に加わるためです。

また、これらの癖はストレスや不安の表れであることも多く、単に歯科的な対応だけでなく、心理的な背景にも配慮する必要があります。

習癖改善の適切な時期と方法

習癖改善の適切な時期と方法

口腔習癖への対応は、時期と方法を適切に選ぶことが重要です。早すぎる介入は子どもにストレスを与え、遅すぎる介入は効果が限定的になります。

年齢別の介入方針

乳幼児期(0〜3歳)の指しゃぶりやおしゃぶりは、生理的な行動であり、情緒的な安定をもたらす面もあります。この時期は無理にやめさせる必要はありません。ただし、2歳を過ぎたら日中のおしゃぶり使用を徐々に減らし、3歳までには完全にやめることを目標にします。

幼児期(3〜6歳)は、習癖改善を始める重要な時期です。4歳を過ぎても指しゃぶりが続く場合は、積極的な介入が推奨されます。この時期であれば、習癖をやめることで変形した歯並びが自然に改善することも多くあります。ただし、無理強いは逆効果になるため、子どもが理解できる言葉で説明し、やめられたらほめるという正の強化を用いることが効果的です。

学童期(6〜12歳)になっても習癖が残っている場合は、より専門的な介入が必要です。この時期は永久歯への生え変わりが進む重要な時期であり、習癖が続くと永久歯の歯並びに直接影響します。場合によっては、習癖改善装置や筋機能療法(MFT)などを用いた治療が必要になります。

家庭でできる習癖改善のアプローチ

習癖をやめさせるためには、まず子ども自身に「なぜやめる必要があるのか」を理解してもらうことが重要です。「指しゃぶりを続けると歯が出てしまうよ」と写真やイラストを使って視覚的に説明することで、子どもの理解を促します。

次に、習癖を行う状況を観察し、トリガーとなる状況を特定します。例えば、退屈な時や眠い時に指しゃぶりをする傾向があれば、その状況で手を使う遊びを提供するなど、代替行動を促します。

また、習癖をやめられた日にはカレンダーにシールを貼るなど、達成感を視覚化する方法も効果的です。ただし、失敗した時に叱るのは避け、成功した時にほめることに焦点を当てます。

子どもの習癖がストレスや不安から来ている場合は、その原因を取り除くことも重要です。環境の変化(引っ越し、弟妹の誕生など)がきっかけになることもあるため、子どもの心理状態にも注意を払う必要があります。

専門的な治療法

家庭での取り組みで改善しない場合や、すでに歯並びへの影響が顕著な場合は、歯科医院での専門的な治療が必要になります

習癖改善装置には、いくつかのタイプがあります。「タングクリブ」は、上顎に装着する装置で、舌を前に出すと装置に当たって不快感を感じるため、舌突出癖の改善に使用されます。「口蓋弧線装置」は、指しゃぶりの際に指が口蓋に触れないようにする装置で、指しゃぶりの習慣を断ち切るのに有効です。

筋機能療法(MFT: Myofunctional Therapy)は、舌や口の周りの筋肉の正しい使い方を訓練する方法です。舌の正しい位置を覚えさせたり、正しい飲み込み方を練習したりします。この治療は、習癖をやめるだけでなく、正常な口腔機能を獲得するために重要です。

小児矯正では、習癖の改善と同時に、成長を利用した顎の拡大や歯列の整列を行います。特に混合歯列期に行う「一期治療」では、上顎を横に広げることで舌のスペースを確保したり、適切な顎の成長を促したりします。早期に介入することで、将来的に抜歯を伴う本格的な矯正治療が必要になるリスクを減らすことができます。

総合的アプローチの重要性と
予防的介入

総合的アプローチの重要性と予防的介入

口腔習癖への対応は、歯科だけでなく医科との連携が重要です。

多職種連携による包括的ケア

前述のように、口呼吸の原因には耳鼻咽喉科的な問題が関わっていることが多くあります。アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎の治療、アデノイドや口蓋扁桃の切除などによって鼻の通りが改善すれば、自然と鼻呼吸に戻り、それに伴って低位舌や開咬も改善することがあります。

また、ストレスや不安が背景にある場合は、小児科医や臨床心理士との連携も必要になることがあります。習癖は単なる悪い癖ではなく、子どもなりのストレス対処法である場合もあるため、心理的なサポートも含めた総合的なアプローチが求められます。

定期検診による早期発見と予防

口腔習癖による歯並びへの影響は、早期に発見し対応することで、深刻な問題への進行を防ぐことができます。そのためには、乳歯列が完成する3歳頃から、定期的な歯科検診を受けることが推奨されます

定期検診では、虫歯のチェックだけでなく、歯並びや噛み合わせの状態、顎の成長、口腔習癖の有無なども確認します。問題が発見された場合は、適切な時期に適切な介入を行うための計画を立てることができます。

当院では、小児歯科と小児矯正の両方に対応しており、総合的な視点からお子さんの口腔の健康を守ります。また、歯科用CTを完備しているため、顎の成長や歯の萌出状態を三次元的に評価し、より精密な診断が可能です。予防歯科を重視する当院の方針として、将来的に大きな問題にならないよう、早期からの継続的なサポートを提供しています。

保護者への教育と支援

子どもの口腔習癖への対応では、保護者の理解と協力が不可欠です。当院では、保護者の方に習癖の影響や改善方法について丁寧に説明し、家庭でできる取り組みをサポートしています

また、習癖改善は時間がかかるプロセスであり、すぐに結果が出ないこともあります。保護者が焦りすぎると、それが子どもへのプレッシャーとなり逆効果になることもあるため、長期的な視点を持って取り組むことが重要です。定期的なフォローアップを通じて、進捗を確認しながら適切なアドバイスを提供します。

よくある質問

Q.指しゃぶりは何歳までにやめさせるべきですか?

指しゃぶりは3歳頃までは生理的な行動であり、無理にやめさせる必要はありません。しかし、4歳を過ぎても続いている場合は、歯並びへの影響が懸念されるため、やめる方向で働きかけることが推奨されます。

特に、永久歯の前歯が生え始める6歳頃までには習慣をやめることが理想的です。ただし、3歳頃から少しずつ意識づけを始め、子どもが自分からやめたいと思えるようサポートすることが大切です。無理強いはストレスとなり、かえって習癖を強化してしまうこともあるため、焦らず段階的に取り組みましょう。

Q.口呼吸かどうかはどうやって判断できますか?

口呼吸の兆候はいくつかあります。普段から口が開いていることが多い、いびきをかく、朝起きた時に口が乾いている、唇がカサカサに乾燥している、姿勢が悪い(猫背で顎を前に出している)などが典型的なサインです。簡単なチェック方法として、子どもがリラックスしている時に唇を閉じさせ、そのまま1分間鼻だけで呼吸できるか試してみてください。苦しそうにする場合や口を開けてしまう場合は、口呼吸の習慣がある可能性が高いです。

また、水を口に含んで数分間保持できるかも確認できます。口呼吸の場合、この動作が難しくなります。

Q.舌の正しい位置とはどこですか?

舌の正しい安静時の位置は、「舌全体が上顎に軽く接し、舌の先端は上の前歯の裏側のやや後方にある口蓋ひだに触れる」状態です。この位置を「スポットポジション」と呼びます。舌が上顎に接することで、上顎の成長を内側から支え、適切な幅を保つ役割を果たします。逆に、舌が下の前歯の裏側や口の底に位置している「低位舌」の状態では、上顎への支えがなくなり、歯列が狭くなる原因となります。

正しい舌の位置を確認するには、「ん」の発音をした時の舌の位置が参考になります。この時、舌の先端が上顎の前方に触れている感覚があれば、概ね正しい位置です。

Q.習癖改善装置を使うと痛みはありますか?

習癖改善装置は、習癖を行った時に軽い違和感や不快感を与えることで、無意識の習癖を意識化させる目的で使用されます。装置自体が痛みを引き起こすことはほとんどありませんが、装着直後は違和感があり、話しにくさや食べにくさを感じることがあります。これらの症状は通常、数日から1週間程度で慣れてきます。

また、装置によって口内炎ができる場合もありますが、歯科用ワックスで保護するなどの対処が可能です。重要なのは、装置は「罰」ではなく、子どもが習癖をやめるための「助け」であるという認識を子ども自身が持つことです。装置の必要性を子どもに理解してもらった上で使用することで、協力が得られやすくなります。

Q.小児矯正はいつから始めるのが良いですか?

小児矯正を開始する時期は、お子さんの歯並びや顎の状態、習癖の有無などによって異なります。一般的には、上下の前歯が永久歯に生え変わる6〜8歳頃が一期治療を開始する適切な時期とされています。この時期は成長が活発で、顎の拡大など成長を利用した治療が効果的に行えます。ただし、反対咬合(受け口)や著しい上顎前突など、早期に対応した方が良いケースもあり、3〜5歳から治療を開始することもあります。

逆に、すべての乳歯が永久歯に生え変わる12歳以降から始める二期治療もあります。最適な開始時期を見極めるためには、早めに矯正相談を受けることが推奨されます。当院では、歯科用CTなどを用いて精密な診断を行い、お子さん一人ひとりに最適な治療計画を提案しています。

この記事を監修した人

埼玉志木駅前歯医者・矯正歯科 コスモクリニック院長 川村 英史

埼玉志木駅前歯医者・矯正歯科
コスモクリニック 院長

院長の川村は、一般歯科からインプラントなどの専門的な治療まで幅広く診療を行い、地域の皆様の口腔健康をサポートしています。東北大学を卒業後、日本最大のクリニックで臨床経験を積み、2016年に志木駅前歯医者コスモクリニックを開院。患者様一人ひとりに寄り添い、丁寧な説明と安心できる治療を心がけています。インプラント寺子屋2022での講演や、WHITE CROSSでの「インプラント治療におけるデジタルとアナログの融合」など講演活動にも積極的に取り組み、著書「最強の臨床術」も執筆。予防歯科を重視した質の高い歯科医療の提供を通じて、地域に貢献する医療を提供できるよう努めております。

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