インプラントを希望して相談に来られた患者様から、「他院で骨が足りないと言われた」と伺うことがあります。あきらめかけていた、という方も少なくありません。
骨の量が不足している場合でも、その骨を増やす処置によって治療の道が開けることがあります。本記事では、骨造成という処置がどういうもので、どんな方法があるのか、そして治療期間や注意点について解説いたします。
なぜインプラントに
骨の量が必要なのか

まず、なぜ骨の話が出てくるのかを整理します。ここを理解しておくと、提案された処置の意味もつかみやすくなります。
インプラントは骨に支えられている
インプラントは、あごの骨に人工の歯根を埋め込み、その上に人工の歯を取り付ける治療です。噛む力は、この人工の歯根を通してあごの骨に伝わります。つまり、支える骨に十分な厚みと高さがなければ、埋め込むこと自体が難しくなります。
必要な骨の量は部位によって異なりますが、人工歯根の周囲に一定の骨が残るだけの幅と高さが求められます。
骨が薄い状態で無理に埋め込めば、後々のトラブルにつながりかねません。日本口腔インプラント学会でも、事前の診査・診断にもとづいて適応を判断することの大切さが示されています。
なぜ骨が減ってしまうのか
骨が足りなくなる背景には、いくつかの理由があります。最も多いのが、歯を失った後に起こる骨の吸収です。歯は噛む力を骨に伝えることで、骨の量を保つ役割も担っています。その歯がなくなると、支える必要のなくなった骨は少しずつやせていきます。
歯周病で骨が溶けてしまった場合、抜歯のときに骨が失われた場合も同様です。欠損を長く放置していたケースでは、骨の吸収がかなり進んでいることもあります。臨床の現場では、10年以上前に抜いたままの部位で、骨の高さが大きく減っていた例を経験しています。
上あごの奥歯には特有の事情がある
上あごの奥歯の上には、上顎洞(じょうがくどう)という空洞があります。鼻とつながった空気の部屋のようなもので、この空洞と歯の根の距離が近い方もいらっしゃいます。
歯を失うと骨がやせるうえ、上顎洞が下に広がってくることもあり、結果として骨の高さが足りなくなりやすい部位です。上あごの奥歯で骨造成が必要と言われることが多いのは、こうした事情によります。
骨造成の代表的な3つの方法

骨造成にはいくつかの術式があり、足りない部位と量によって選び分けます。ここでは代表的な3つを取り上げます。いずれも、骨を補う材料を用いて、体が自分の骨をつくるのを助けるという考え方は共通しています。
GBR(骨誘導再生法)
骨の幅や高さが不足している部分に骨補填材を置き、その上を専用の膜で覆う方法です。
膜には、骨よりも早く増える歯茎の組織が入り込むのを防ぎ、骨がつくられる場所を確保する役割があります。部分的に骨が足りない場合に幅広く用いられる方法で、インプラントの埋入と同時に行うこともあれば、先に骨造成だけを行って治癒を待つこともあります。
サイナスリフト(上顎洞底挙上術)
上あごの奥歯で、骨の高さが大きく不足している場合に選ばれる方法です。歯茎の側面から窓を開け、上顎洞の底を覆っている粘膜を慎重に押し上げて、できたすき間に骨補填材を入れます。
増やせる骨の量が大きい一方、外科的な負担はやや大きくなります。骨が安定するまで、数ヶ月の治癒期間をおいてからインプラントを埋め込む流れが一般的です。
ソケットリフト(歯槽頂アプローチ)
同じく上あごの奥歯に対する方法ですが、こちらはインプラントを埋め込む穴から上顎洞の底を少しだけ押し上げます。不足している高さが比較的小さい場合に向いており、サイナスリフトに比べて体への負担は抑えられます。
ただし、押し上げられる量には限りがあり、どちらを選ぶかはCTで骨の高さを測ったうえでの判断になります。
抜歯と同時に骨を守る方法もある
骨を増やすだけでなく、減らさないという考え方もあります。抜歯した穴に骨補填材を入れて骨の吸収を抑える処置がそれにあたります。抜歯後の骨は、最初の数ヶ月で比較的大きく変化するとされており、この時期にどう対応するかが後の選択肢を左右します。
将来インプラントを検討している場合、抜歯の段階で相談しておくと、後の骨造成を小さく済ませられることがあります。
どの方法を選ぶかは検査で決まる
3つの方法は、どれが優れているというものではありません。
足りないのが幅なのか高さなのか、部位は上あごか下あごか、不足している量はどの程度か。これらによって選ぶ術式は変わります。CTで骨の厚みや上顎洞の位置、神経の走行を確認したうえで、はじめて判断ができます。
同じ「骨が足りない」という説明でも、内訳は患者様ごとに異なるものです。
治療期間と
知っておきたい注意点

骨造成を検討するうえで、期間や体への負担を知っておくことは欠かせません。期待できることと、限界の両方をお伝えします。
治療にかかる期間の目安
骨造成を行った場合、補った骨が安定するまでに3〜6ヶ月ほどの治癒期間をおくことが多いです。その後インプラントを埋め込み、さらに骨と結合するのを待つため、通常より治療全体が長くなります。
同時に行える場合はもう少し短く済むこともありますが、いずれにせよ数ヶ月単位の見通しで考えていただくと良いかと思います。
待つ期間があることを負担に感じる患者様もいらっしゃいます。
ただ、補った骨が十分に硬くなる前に力をかければ、その後の安定に影響します。急がば回れ、という言葉が当てはまる場面です。治療の途中で仮の歯を入れて見た目や噛む機能を補えることもありますので、待機期間の過ごし方についても事前に確認しておくと安心です。
注意点と適応の限界
外科的な処置ですので、術後に腫れや内出血、痛みが出ることがあります。多くは数日から1週間ほどで落ち着いていきますが、感じ方には個人差があります。喫煙は治りを妨げる要因とされており、糖尿病など全身の状態も影響します。
そして、骨造成を行えばどんな症例でもインプラントができる、というものではありません。骨の状態や全身の条件によっては、適応が難しいと判断することもあります。
その場合は、入れ歯やブリッジといった別の方法もあわせて検討します。自己判断はせず、まず検査を受けたうえで相談していただければと思います。
骨造成の判断で当院が
重視している検査と環境

CTで骨の状態を立体的に把握する
当院では、CTによる三次元的な検査をもとに骨の状態を確認したうえで治療計画を立てています。骨がどこにどれだけ足りないのかは、平面のレントゲンだけでは把握しきれません。
厚みや上顎洞の位置、神経の走行を断層で見ることではじめて、必要な処置が見えてきます。
検査の画像は、患者様にもご覧いただきながら説明しています。ご自身の骨がどういう状態なのかを目で確かめていただくと、提案する処置の意味も伝わりやすくなります。
外科処置を行う環境を整える
外科処置では、環境そのものが結果に関わります。インプラント専用のオペ室を設けているのは、清潔な状態を保ち、落ち着いて処置に臨むためです。骨造成をともなう治療では、通常のインプラント以上に丁寧な準備が求められます。
「できるか」より「必要か」を見極める
院長はSJCDやJIADSでの研鑽を重ね、ヨーロッパ最大のインプラント学会であるEAOにも参加してきました。
そうした経験から申し上げると、骨造成は「できるかどうか」だけでなく「その患者様にとって必要かどうか」を見極めることが肝心です。他院で難しいと言われた場合でも、条件が変われば選択肢が生まれることがあります。まずはご相談ください。
よくある質問
Q.骨造成は痛いですか?
処置中は局所麻酔を行うため、強い痛みを感じることは多くありません。術後に腫れや痛みが出ることはありますが、多くは数日でやわらいでいきます。
痛み止めをお出しすることもあります。感じ方には個人差があり、処置の範囲によっても変わるため、不安な点は事前にお尋ねください。腫れが出やすい時期は、お仕事や予定との兼ね合いも含めて日程を相談しておくと負担が減ります。
Q.骨を増やす材料は何を使うのですか?
ご自身の骨を用いる場合と、人工の骨補填材を用いる場合、それらを組み合わせる場合があります。ご自身の骨は治りの面で利点がある一方、採取する部位への負担が加わります。人工の材料は採取が不要ですが、置き換わり方には個人差があります。
どれを選ぶかは、不足している量や部位、体への負担を考えたうえでの判断になります。使用する材料については、治療前に説明を受けたうえで納得して進めていただくのが良いかと思います。
Q.骨造成をすれば必ずインプラントができますか?
必ずとは申し上げられません。骨の状態や治癒の経過、全身の条件によっては、思うように骨が得られないこともあります。
経過には個人差があり、途中で計画を見直す場合もあります。だからこそ、事前の検査で見通しを立て、別の選択肢も含めて話し合っておくことが役に立ちます。
Q.費用は保険が使えますか?
インプラント治療は原則として自費診療となり、骨造成もその一部として扱われます。
処置の内容や範囲によって費用は変わるため、検査のうえでお見積りをお伝えします。金額だけでなく、期間や通院回数、治療後のメンテナンスまで含めて確認しておくと、後から慌てずに済みます。
骨が足りないと言われても、そこで終わりとは限りません。検査をしてみると、想像していたより条件が良いこともあります。まずは今の状態を正確に知るところから、一緒に考えていければと思います。