転んでぶつけた、硬いものを噛んだ拍子に欠けた、気づいたら歯が割れていた。こうした事態に直面すると、どうすればよいのか戸惑ってしまうものです。
歯が欠けたり割れたりしたとき、最初の対応がその後の治療を左右することがあります。慌てて間違った対処をすると、本来残せた歯を失うことにもなりかねません。本記事では、欠け方による違いと、自宅でできる応急処置、そして歯科での治療法について解説いたします。
歯の欠け方・割れ方には
いくつかの種類がある

ひと口に「歯が欠けた」といっても、その程度はさまざまです。まず知っておきたいのは、どこまで損傷しているかによって、緊急度も治療法も変わるという点です。代表的なパターンを見ていきます。
浅い欠けと深い欠け
歯の表面のエナメル質だけが少し欠けた場合は、痛みもなく、緊急性は高くありません。
一方、その内側の象牙質(歯の本体をつくる組織)まで達すると、しみたり痛んだりします。さらに歯の中心にある神経まで達すると、強い痛みや出血が出ることがあります。同じ「欠けた」でも、深さによって状況はまったく異なります。
鏡で見て、欠けた断面が黄色っぽい、あるいは赤みを帯びているようなら、深いところまで達しているサインかもしれません。
痛みがないからといって浅いとは限らず、神経が一時的に反応していないだけ、ということもあります。見た目だけで自己判断せず、確認しておくのが安心です。
見えにくい「歯の根の割れ」
やっかいなのが、歯の根が縦に割れる歯根破折です。歯ぎしりや食いしばりの強い力が長年かかった歯、神経を取って弱くなった歯に起こりやすいとされています。外からは見えにくく、噛むと痛い、歯茎が腫れる、特定の歯だけ繰り返し膿むといった形で気づくことがあります。
レントゲンでも分かりにくいことがあり、診断に時間を要する場合もあります。割れ目から細菌が入り込み、周囲の骨に炎症が広がってしまうと、歯を残すのが難しくなることもあります。違和感が続くようなら、早めに確認しておきたいところです。
歯が丸ごと抜けてしまった場合
ぶつけた衝撃で、歯が根ごと抜け落ちてしまうこともあります。これは脱臼と呼ばれる状態で、対応を急ぐケースです。
抜けてからの時間と保存の仕方によっては、元の位置に戻して使える可能性が残されています。一般に、時間が経つほどその可能性は下がっていきます。だからこそ、その場での対応が結果を大きく分けます。次にお伝えする応急処置を、落ち着いて行ってください。
歯が欠けたときの応急処置

歯科にかかるまでの間、自宅でできることがあります。慌てず、落ち着いて対応してください。やってよいことと、避けたいことを整理します。
まずやっておきたいこと
欠けた歯のかけらが残っている場合は、捨てずに保管してください。乾燥させないことが肝心で、歯の保存液があればそこに、なければ牛乳に浸して持参すると、状態によっては再び使える場合があります。
ぶつけて歯が丸ごと抜けてしまったときは、歯の根の部分を触らず、白い頭の部分(歯冠)をつまむように持ちます。土などで汚れていても、ゴシゴシこすって洗うのは避けてください。
根の表面には、元に戻すために必要な組織が付いており、これを傷つけると戻せる可能性が下がります。出血している場合は、清潔なガーゼやティッシュを軽く噛んで押さえると、多くは数分で落ち着いてきます。
避けた方がよいこと
欠けた部分を舌や指でしきりに触る、自己判断で市販の接着剤を使う、といった対応は避けてください。鋭くとがった部分で舌や頬を傷つけそうなときは、市販の歯科用ワックスで一時的に覆う方法もありますが、あくまで応急的なものです。
痛みがあるときは市販の痛み止めで一時的にしのげますが、原因が消えるわけではありません。冷やすと楽になることもありますが、患部を直接強く冷やしすぎないようにします。
痛みや出血、ぐらつきが強い場合は、できるだけ早く歯科を受診してください。応急処置はあくまで時間かせぎであり、治療の代わりにはならない、という点を忘れないでいただきたいところです。
歯科での治療法と放置するリスク

歯科では、欠け方や割れ方の程度に応じて治療法を選びます。ここでも、どこまで損傷しているかが判断の分かれ目になります。
程度に応じた治療法
ごく浅い欠けであれば、歯科用のプラスチック樹脂を詰めて形を整えることが多いです。象牙質まで達している場合は、詰め物や被せ物で補います。
神経まで達していれば、神経の処置(根管治療)を行ってから被せることになります。歯の根が深く割れている場合は、残念ながら抜歯が必要になることもあります。
丸ごと抜けた歯は、早く適切に保存できていれば、元の位置に戻して固定を試みることがあります。日本歯科保存学会でも、できるだけ歯を保存する治療が重視されています。
当院でも、まず歯を残せないかを第一に考えて治療法を検討します。同じ欠け方に見えても、選べる治療は一人ひとり異なるものです。
治療の回数や期間も、損傷の程度によって変わります。樹脂を詰めるだけなら一回で終わることもあれば、神経の処置をはさむ場合は数回の通院が必要になることもあります。
見た目に関わる前歯では、形や色の調整に時間をかけることもあります。どの方法でどれくらいかかるのかは、状態を確認したうえでお伝えします。
放置するとどうなるか
「痛くないから」と放置すると、欠けた部分から虫歯が進んだり、割れ目から細菌が入って内部で炎症を起こしたりすることがあります。神経が出ているのに放置すれば、やがて神経が死んでしまい、根の先に膿がたまることもあります。
当院でも、小さな欠けを長く放置した結果、神経の処置や、最終的に抜歯まで必要になったケースを経験しています。
最初は樹脂を詰めるだけで済んだはずのものが、時間とともに大がかりな治療に変わっていく。これは、避けられたはずの遠回りです。早めの受診が、歯を残せる可能性を高めます。
当院での対応

当院では、欠けた歯や割れた歯について、まず損傷の程度を確認し、歯をできるだけ残す方向で治療法を検討します。
神経の処置が必要な場合には、マイクロスコープを用いた精密な治療にも対応しています。肉眼では見えにくい細部を拡大して確認することで、より丁寧な処置を目指せるからです。
前歯など見た目が気になる部分については、噛む機能だけでなく、自然な仕上がりにも配慮します。どの歯がどんな状態かによって、その日に応急的な処置だけ行い、後日あらためて本格的な治療を行うこともあります。
まずは痛みや不便を和らげ、落ち着いて治療方針を選んでいただけるよう進めます。突然のことで動揺されるのは当然です。受診の際は、いつ、どのようにして欠けたり割れたりしたのか、思い出せる範囲でお伝えいただけると診察の助けになります。
歯の状態には個人差があり、必ずしも同じ治療になるとは限りません。欠けたり割れたりしたときは、自己判断で様子を見すぎず、早めに相談していただければと思います。
よくある質問
Q.歯が少し欠けただけで痛みもありません。様子を見てもよいですか?
痛みがなくても、欠けた部分から虫歯が進んだり、鋭い縁で舌や頬を傷つけたりすることがあります。急を要さない場合もありますが、断面が深くないか、ひびが入っていないかは見た目では判断が難しいものです。一度歯科で確認しておくと安心です。
特に、噛んだときに違和感が出る場合は、思ったより深く達していることもあるため、自己判断で放置しすぎないことをおすすめします。
Q.抜けた歯を元に戻せますか?
抜けてからの時間と、歯の保存状態によっては、元の位置に戻せる場合があります。根の部分を触らず、乾燥させないようにして、できるだけ早く受診することが鍵になります。
乾いてしまうと組織が傷み、戻せる可能性が下がります。保存液や牛乳に浸し、迷わず急いで歯科へ向かってください。難しいと思っても、まず受診して相談する価値はあります。
Q.神経を取った歯は割れやすいのですか?
神経を取った歯は水分や栄養が届きにくくなり、もろくなって割れやすい傾向があるとされています。割れ方によっては抜歯が必要になることもあります。
強い力がかかりやすい方や、歯ぎしりの自覚がある方は、被せ物で歯全体を覆って守る、ナイトガードを使うなど、割れを防ぐ対策も含めて相談しておくとよいかと思います。
Q.子どもが転んで前歯をぶつけました。どうすればよいですか?
ぐらつきや欠け、変色、出血がないかを確認し、できるだけ早く歯科を受診してください。見た目に異常がなくても、後から神経に影響が出て、数週間から数ヶ月後に歯の色が変わってくることがあります。
ぶつけた状況や時間をお伝えいただけると、診察の助けになります。乳歯の場合も、内側で育っている永久歯への影響を確認するために、受診をおすすめします。出血が止まらない、歯が大きくずれている、ぐらつきが強いといったときは、急いで受診してください。